Blogブログ
2026/10/30 08:40

野生動物の命を守るとは何か。猟師として考える、人間の責任
野生動物の捕獲が行われるたびに、命を奪うことへの疑問や批判が生まれます。
動物の命を大切にしたい。
人間の都合だけで、野生動物を殺してよいのだろうか。
捕獲以外に、解決する方法はないのだろうか。
こうした問いには、考えるべき大切な問題が含まれています。
私も、野生動物の命を軽く扱ってよいとは思いません。
一方で、猟師として野生動物と向き合うなかで、考えなければならないことがあります。
それは、特定の動物の命を守ることと、その動物を含む生態系全体を守ることは、必ずしも同じではないということです。
今回は、シカの個体数管理を例に、野生動物の命と人間の責任について考えてみたいと思います。
1. シカを守ることと、生態系を守ること
シカは、森林に生きる動物です。
植物を食べ、繁殖し、ほかの生物と関わりながら生きています。
その存在自体が問題なのではありません。
問題になるのは、地域によってシカの採食圧が高まり、森林の植生に大きな影響が生じることです。
シカの採食によって下層植生や樹木の稚樹が減少すると、森林の更新が妨げられることがあります。
植物の種類や量が変化すれば、そこを生息場所や餌場として利用する昆虫や鳥類などにも影響が及ぶ可能性があります。
また、植生や落葉層の状態が変化した場所では、地形や土壌、降雨などの条件によって、土壌侵食や土砂流出のリスクが高まることもあります。
もちろん、こうした影響は全国どこでも同じように発生するわけではありません。
シカの密度だけでなく、森林の種類、地形、土壌、気象条件など、複数の要因が関係します。
それでも、シカの採食圧によって森林の再生が妨げられている地域があることは、考えなければならない問題です。
ここで、一つの問いが生まれます。
シカの命を守ることを優先した結果、ほかの動植物の生息環境が失われてしまったとしたら、それは本当に自然を守ったことになるのでしょうか。
特定の動物を保護することと、生態系全体を保全することは、区別して考える必要があります。
シカも、森林に生きる命です。
しかし、シカだけが森林の命ではありません。
植物も、昆虫も、鳥も、土壌の中に生きる生物も、それぞれが関わり合いながら生態系を形づくっています。
だからこそ、野生動物の問題を考えるときには、目の前にいる動物だけでなく、その動物が暮らす環境全体を見る必要があると思います。

2. 人間が引き起こした問題なら、人間が責任を取る
野生動物の問題について考えるとき、私は、人間の活動が現在の状況に影響を与えてきたことを無視できないと考えています。
森林の管理方法の変化。
農地や集落の変化。
狩猟者の減少。
野生動物の生息環境や個体数に影響するさまざまな条件。
こうした要因は地域によって異なり、シカの増加や被害を一つの原因だけで説明することはできません。
それでも、人間の社会や土地利用の変化が、野生動物と人間の関係に影響を与えてきたことは確かです。
動物愛護の立場から、人間が引き起こした問題なのだから、動物を殺すことで解決するべきではないという意見が出ることも理解できます。
私も、捕獲以外の対策を考えることは必要だと思っています。
しかし、ここで別の問題が生まれます。
人間が引き起こした問題だからこそ、人間が責任を取らなければならないのではないでしょうか。
責任を取るというのは、単に過去の行為を反省することではありません。
発生している問題を把握し、必要な対策を実行し、その結果に責任を持つことです。
森林の再生が必要なら、そのための対策を行う。
農作物への被害が発生しているなら、被害を防ぐ仕組みをつくる。
シカの採食圧が高く、個体数管理が必要な地域では、適切な管理を行う。
そして、実施した対策によって、本当に状況が改善したのかを確認する。
それが、人間が引き起こした問題に対して、人間が責任を取るということではないかと思います。
3. 個体数管理の前に、個体数を把握できているのか
シカの個体数管理について考えるとき、まず確認しなければならないことがあります。
それは、管理の対象となるシカが、実際に何頭いるのかという問題です。
個体数を減らす必要があるとしても、現在の個体数がどの程度なのかを把握できていなければ、適切な管理目標を設定することはできません。
全国の推定生息数や、国が掲げる個体数削減目標も、その根拠となる推定値の信頼性を考える必要があります。
野生動物は広い範囲に生息し、すべての個体を直接数えることは容易ではありません。
そのため、調査結果や捕獲実績などのデータを利用し、統計モデルによって個体数を推定する方法が用いられます。
その一つが、ハーベストベースドモデル(Harvest-based model)です。
捕獲数などのデータを利用して個体群の状態や個体数の変化を推定する方法ですが、実際にどのようなデータを使用するか、どのような仮定を置くかは、モデルによって異なります。
ここで重要になるのが、推定結果の信頼性です。
捕獲数が増えたからといって、必ずしもシカの個体数が増えたとは限りません。
捕獲に従事する人数や捕獲努力量が増えた可能性もあります。
反対に、捕獲数が減少した場合も、個体数が減ったとは限りません。
捕獲者の減少、捕獲方法の変更、捕獲されやすさの変化など、さまざまな要因が考えられます。
つまり、捕獲数と個体数の関係を適切に評価しなければ、実際の個体数を正しく推定することはできません。
個体数推定の信頼性を考えるうえでは、使用するデータの精度だけでなく、モデルの仮定や推定誤差についても検討する必要があります。
推定値が実態から大きく外れていれば、管理目標そのものが適切でなくなる可能性があります。
必要以上に個体数を減らしてしまうこともあれば、反対に、個体数や採食圧を十分に抑えられないことも考えられます。
もちろん、どのような統計モデルであっても、誤差を完全になくすことはできません。
だからこそ、推定値を確定的な数字として扱うのではなく、推定の不確実性を把握し、可能であれば独立した調査結果や植生の変化などと照らし合わせながら、その妥当性を検証する必要があります。
私は、個体数管理の必要性を議論する前に、まず個体数推定の信頼性を確かめることが重要だと考えています。
どれだけ立派な管理計画を立てても、その判断の基礎となる数字が実態を適切に反映していなければ、計画そのものの妥当性が揺らいでしまうからです。
野生動物の命を扱う以上、管理する側には、なぜその頭数を目標とするのかを説明できる根拠が求められます。
個体数を推定すること。
推定方法の精度を検証すること。
管理を実施した後に、個体数や植生、被害がどう変化したのかを確かめること。
この一連の過程があって初めて、科学的根拠に基づく個体数管理に近づくのだと思います。
4. 捕獲は目的ではなく、管理のための手段
私は猟師です。
そのため、シカを捕獲するという行為を、抽象的な議論だけで考えることはできません。
捕獲するには、技術も労力も必要です。
捕獲した動物を扱うには、その後の作業もあります。
そして、捕獲すること自体が目的になってしまえば、本来何を解決するために行っているのかが見えなくなる可能性もあります。
だからこそ、捕獲については、目的と手段を分けて考える必要があります。
何のために捕獲するのか。
どの地域で、どの程度の管理が必要なのか。
個体数の推定は信頼できるのか。
捕獲によって被害や植生の状況は改善しているのか。
こうした点を確認しなければなりません。
捕獲頭数が多ければ、それだけ森林が回復するとは限りません。
反対に、捕獲を減らせば、必ず森林が守られるというわけでもありません。
地域の状況を調べ、必要な対策を選び、その効果を検証することが重要です。
個体数管理は、シカに対する罰ではありません。
シカが増えたこと自体を、シカの責任にすることもできません。
シカは生きるために食べ、繁殖し、環境に適応しているだけです。
しかし、その結果として森林の更新が妨げられたり、農林業被害が深刻になったりしているのであれば、人間はその影響に対応しなければなりません。
必要な捕獲を行うことと、命を尊重することは、必ずしも矛盾しないと私は考えています。
捕獲は目的そのものではありません。
生態系や地域の暮らしを維持するために、必要性を検討したうえで選択する管理手段の一つです。
5. 捕獲以外の道も必要である
もちろん、捕獲だけですべての問題を解決できるわけではありません。
むしろ、捕獲以外の対策を組み合わせることが重要です。
例えば、農地への侵入を防ぐための防護柵。
森林の更新状況を確認しながら進める植生の保護や再生。
集落周辺の環境整備。
シカの生息状況や被害の把握。
そして、地域の状況に応じた個体数管理。
これらは、それぞれ異なる役割を持っています。
防護柵は、農地への侵入を防ぐための対策です。
森林の再生は、植生や樹木の更新を回復させるための取り組みです。
生息状況の調査は、どこで、どのような問題が起きているのかを把握するために必要です。
個体数管理は、シカの密度や採食圧が問題となっている地域で、その影響を抑えるための手段の一つです。
一つの対策ですべてを解決しようとするのではなく、地域の条件に応じて組み合わせる必要があります。
ただし、どの対策にも費用と労力がかかります。
防護柵を設置しても、維持管理をしなければ効果は低下します。
森林を再生しようとしても、植生への食害が続けば、十分に回復しない場合があります。
調査にも費用がかかり、推定値には不確実性があります。
そして、こうした作業を誰が担うのかという問題もあります。
過疎地域では、対策を実施する人手そのものが不足していることも少なくありません。
「捕獲以外の方法を考えるべきだ」という主張は重要です。
しかし、その方法を誰が実施し、どのように維持し、どのような結果を目指すのかまで考えなければ、現場で機能する対策にはなりません。
捕獲を行う側にも、捕獲以外の方法を求める側にも、現実的な仕組みを考える責任があると思います。
6. 動物愛護と野生動物管理は、対立しなければならないのか
野生動物の問題について考えるとき、私は、動物愛護を重視する人と、個体数管理に携わる人が、必ずしも対立する必要はないと思っています。
不必要な殺傷は避けたい。
野生動物による被害も減らしたい。
森林や生態系も守りたい。
人間が引き起こした問題を放置したくない。
こうした目標には、共通する部分があります。
違いが生まれるのは、それらをどのような方法で実現するかという部分でしょう。
動物の命を守ることを重視する人は、殺傷を避ける方法を求めるかもしれません。
野生動物管理に携わる人は、個体数や植生への影響を見ながら、捕獲が必要だと判断するかもしれません。
どちらの立場であっても、現場の状況を把握し、実施した対策の結果を確かめることが必要です。
個体の苦痛を減らすことと、生態系への影響を抑えることが、常に一致するとは限りません。
だからこそ、具体的な状況を調査し、対策の効果と負担を比較しながら判断する必要があります。
また、動物愛護を掲げる人々の考え方も一様ではありません。
捕獲に反対する人もいれば、必要性を認めつつ、より苦痛の少ない方法や捕獲以外の対策を求める人もいるでしょう。
それぞれの考え方を理解し、議論することも大切です。
命を守ることと、必要な個体数管理を行うこと。
この二つを最初から対立するものと決めつけず、両立させる方法を探る必要があると思います。
7. 捕獲した命を、どう活かすのか
もう一つ、私が大切だと考えていることがあります。
それは、捕獲した動物を、その後どう扱うのかという問題です。
捕獲が必要な地域では、捕獲したシカをどう処理するのかという課題が生まれます。
食肉として利用できるものは食肉へ。
皮は皮革や毛皮へ。
骨や角なども、可能な範囲で資源として利用する。
こうした取り組みには、意味があると考えています。
もちろん、すべての個体を、すべての部位まで利用できるわけではありません。
捕獲した個体の状態によっては、食肉として利用できない場合もあります。
加工には設備や技術、労力が必要です。
製品にしたとしても、需要がなければ継続できません。
資源利用を成立させるためには、安全性や衛生管理、加工費用、販売先など、さまざまな条件を整える必要があります。
それでも、利用できるものを可能な限り活かす方法を探ることには価値があると思います。
ただし、資源として利用できるからといって、必要以上に捕獲してよいということにはなりません。
あくまでも、必要な管理によって捕獲された命を、適切に活かすという考え方です。
捕獲すること。
捕獲した命を利用すること。
そもそも被害が生じにくい環境をつくること。
これらは別々の課題ですが、野生動物と人間が共に暮らしていくためには、いずれも考える必要があります。
命を大切にするという言葉を、実際の作業や仕組みに落とし込む。
そのために何ができるのかを考え、少しずつ実践していくことが大切だと思っています。
8. 命を守るという理念を、現場で機能する仕組みへ
野生動物の問題について考えるとき、私は、命を大切にする人と、個体数管理に携わる人が、必ずしも対立する必要はないと思っています。
不必要な殺傷は避ける。
野生動物による被害を減らす。
森林や生態系を守る。
人間が引き起こした問題に責任を持つ。
こうした目標を実現するためには、理念だけでなく、具体的な方法が必要です。
個体数を把握する。
推定方法の信頼性を検証する。
地域の状況に応じて管理目標を設定する。
捕獲以外の対策も組み合わせる。
実施した対策の結果を確認する。
そして、捕獲した命を可能な限り適切に活かす。
こうした取り組みを積み重ねていく必要があります。
すべてのシカを守ればよいわけでも、すべてのシカを減らせばよいわけでもありません。
大切なのは、特定の動物だけを見るのではなく、森林に生きるさまざまな生物と、人間の暮らしを含めて考えることです。
人間が環境に影響を与えてきたのであれば、その結果に責任を持たなければなりません。
必要な捕獲を行うことも、捕獲以外の対策を進めることも、その責任を果たすための選択肢です。
どちらか一方の理念を掲げて終わりにするのではなく、実際に機能する方法を探し続けること。
私は、それが野生動物と人間の関係を考えるうえで、必要な姿勢だと思います。
命を守るという理念を、現場で機能する仕組みに変えていく。
そのために、自分にできることを一つずつ実践していきたいと思います。
おわりに
野生動物の命を守りたいという思いと、個体数管理が必要だという判断。
この二つは、必ずしも矛盾するものではありません。
大切なのは、感情や立場だけで結論を出すのではなく、現場で何が起きているのかを把握し、根拠に基づいて判断することです。
そのためには、個体数推定の信頼性を確かめることも、捕獲以外の方法を検討することも、捕獲した命を活かすことも必要になります。
人間が引き起こした問題なら、人間が責任を取る。
その責任の取り方を、具体的な行動と仕組みによって考えていきたいと思います。
Bushcraft komorebiでは、野生動物の命を無駄にしないことを大切にし、鹿の皮革・毛皮・角・骨などの資源利用に取り組んでいます。
活動や製品についてのお問い合わせは、各商品ページまたはお問い合わせ窓口からご連絡ください。
