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2026/08/17 05:59

サルは、柵の向こうから来るとは限らない。
猿害。
山間部で暮らしていると、決して他人事ではありません。
農林水産省によると、令和6年度の全国の野生鳥獣による農作物被害額は188億円。そのうち、ニホンザルによる被害は約7億7千万円に上ります。
三重県でも、令和6年度の農林水産業被害額は約4億円。そのうちニホンザルによる被害は約6,358万円でした。
数字だけを見ると大きな金額に見えます。
でも、実際に畑を作っている人からすれば、被害額として計算される数字だけではありません。
育ててきた作物を食べられる。
収穫を諦める。
対策のために柵を設置する。
壊された柵を直す。
また来るかもしれないと見回りをする。
数字には表れにくい時間や労力もあります。
そして、サルの被害が難しい理由の一つは、シカやイノシシとは違う動き方をすることです。
サルは木に登る。
柵にも登る。
地面だけではなく、木や建物などを利用して立体的に移動します。
そのため、作物を守るということだけを考えれば、農地の周囲を柵で囲うだけでは十分とはいえません。
周囲をネットで囲っても、サルは登って越えることができます。
さらに、ネットを破られて侵入されることもあります。
農林水産省の資料でも、ネットは野生獣による噛みちぎり被害があるため、設置後の点検が重要とされています。
サルの場合、周囲だけを囲うのではなく、天井面までネット等で覆う方法も必要になります。
つまり、サルから作物を守るということは、単純に「高い柵を作ればいい」という話ではありません。
地面から来る動物を想定した防護ではなく、上からも来る動物として考える必要があります。
立体的に動く動物だからこそ、防護する側も立体的に考えなければならない。
そして、もう一つ厄介なのが、人間との関係です。
ニホンザルは記憶力や学習能力が高く、場所・出来事・人を覚える能力があるとされています。
サルは、人間なら誰でも同じように見ているわけではないように感じます。
先輩猟師からは猟師の個人の顔を覚えており、女性や子供の時は、人間に対して強気に出てくるとも聞きます
これは、今回調べた公的資料から「サルが女性や子供を見分けて強気になる」と断定できるものではありません。
あくまで言われている事です。
ただ、人間を個体として認識し、行動を学習する能力があるのであれば、人間側の反応もサルにとっては経験として蓄積されていくのだろうと思います。
だからこそ、猿害対策は単純な「追い払い」だけでもありません。
どこから来るのか。
何を食べているのか。
どこへ逃げていくのか。
どこで休んでいるのか。
どの場所に繰り返し出てくるのか。
そうしたことを見る必要があります。
全国各地でも、猿害対策は一つの方法だけではなく、いくつもの方法を組み合わせて行われています。
例えば群馬県では、サルに対応した防護柵の設置・維持管理、戦略的な追い払い、集落環境の管理、必要に応じた個体群管理などを組み合わせています。
群馬県内には、集落ぐるみで電気柵を整備し、林縁部を管理しながら追い払いを行うことで、サルの被害を減らした事例もあります。
長野県でも、誘引物をなくす、環境を整える、追い払う、侵入を防ぐなど、複数の方法が研究・実施されています。
京都府でも、集落内に無意識に残している餌をなくすこと、藪を管理すること、防護柵を適切に管理すること、地域で継続して追い払うことなどが重要とされています。
そして、ここ美杉と同じ三重県にも、興味深い事例があります。
伊賀市の下阿波地区では、集落ぐるみでサルの追い払いと防護を行い、サルによる農作物被害や民家への侵入などが大きく減少した事例が紹介されています。
三重県内では、伊賀市だけではなく、鈴鹿市、伊勢市、いなべ市、菰野町、津市、松阪市などでも、地域ぐるみでサルの追い払いに取り組んだ事例があります。
面白いのは、どの地域でも「これ一つで解決」という考え方ではないことです。
数字で見ると、もっと分かりやすい事例があります。
三重県伊賀市の下阿波地区では、集落ぐるみでサルの追い払いなどに取り組みました。
その結果、サルによる被害箇所は29か所から9か所へ減少し、推計被害金額も約400万円から約50万円へ減少しています。
追い払いを始めてすぐに効果が出たわけではありません。
三重県の記録では、開始から3か月余りは効果が現れず苦労したものの、その後はサルが人を見ると山へ逃げるようになり、出現回数も減っていったとされています。
これは面白いと思いました。
「追い払う」という一見単純な行為でも、地域で継続することで、サルの行動そのものが変わっていく可能性がある。
つまり、獣害対策は「一頭捕まえたら終わり」というものではないのだと思います。
餌をなくす。
藪を管理する。
侵入を防ぐ。
出てきたら追い払う。
必要であれば捕獲する。
そして、その結果を見ながら方法を変えていく。
私は猟師なので、どうしても「捕獲」という方法を身近に考えます。
しかし、サルについては、捕獲だけが答えではない。
むしろ、被害を減らすという目的だけを考えれば、「サルが農地に来なくなる状態を作る」ことの方が重要な場合もあると思います。

そこで今回、写真に撮ったのがスリングライフルです。
これは、今回の記事を書く中で考えている「追い払い」という選択肢の一つです。
ただ、道具があれば猿害が解決するわけではありません。
大切なのは、その道具を使う以前に、
「なぜサルがここに来るのか」
を見ることだと思っています。
サルにとって、そこに何があるのか。
人間側が何を残しているのか。
どこなら安全なのか。
どこなら食べ物を得られるのか。
そうした条件を一つずつ見ていく。
これは鹿の捕獲でも同じです。
動物の行動を見る。
動線を見る。
餌を見る。
地形を見る。
そして、人間側の行動も考える。
獣害対策は、動物との知恵比べのように言われることがあります。
でも、本当は知恵比べというより、相手の行動を理解する作業なのかもしれません。
サルを見つけたから追い払う。
畑を荒らされたから柵を作る。
それだけではなく、
「なぜ、この場所がサルにとって魅力的なのか」
まで考えてみる。
そうすると、対策の方法も変わってくるように思います。
私が住んでいる美杉も、山と集落と農地が近い場所です。
シカだけではありません。
イノシシもいる。
サルもいる。
その他の野生動物もいる。
人が暮らしていく以上、野生動物との距離をどう取るのかは、これからも考えていかなければならない問題だと思っています。
私は猟師として、捕獲することだけではなく、捕獲しなくても被害を減らせる方法についても、現場で考えていきたいと思っています。

スリングライフルも、その中の一つ。
まだ試行錯誤の途中です。
どのような場面で意味があるのか。
本当に地域の猿害対策として役に立つのか。
そこは、実際に現場で考えていくしかありません。
全国各地の事例を調べてみても、共通しているのは「一つの方法だけに頼らない」ということでした。
サルを知る。
集落を知る。
農地を知る。
そして、地域で続ける。
私も、まずは自分の暮らしている場所で、自分にできることから試していきます。
結果がどうなるのか。
それも含めて、また記録していこうと思います。

