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2026/08/09 06:47

骨は、捨てるものではなかった。
白く磨かれた、小さな骨。
鹿角とは違います。
これは、鹿の身体を支えていた「骨」です。
硬く、軽く、そして面白い形をしています。
削れば形を変えられる。
穴を開ければ装飾になる。
細く加工すれば、道具にもなる。
鹿骨を加工していると、ふと考えることがあります。
昔の人は、この素材を何に使っていたのだろう。
調べてみると、その答えは想像していたよりずっと面白いものでした。
鹿の骨は、縄文時代の道具になっていた
縄文時代の遺跡からは、動物の骨や角などを加工した「骨角器(こっかくき)」が数多く出土しています。
骨角器とは、動物の骨や角、牙などを加工して作った道具や装身具の総称です。
その中には、鹿の骨そのものを加工したものもあります。
例えば、鹿の中足骨を利用した骨針があります。
鹿の脚にあった骨を割り、削り、先端を整える。
そうして一本の骨が、針という道具になります。
また、鹿の中足骨を加工して作られた「骨箆(こつべら)」も確認されています。
鹿の骨が、土を掘るなどの作業に使われる道具へ姿を変えていたのです。
考えてみれば、とても合理的です。
動物を食べたあとに残った骨を捨てるのではなく、もう一度、人の暮らしの中で使う。
鹿の身体の一部が、別の役割を与えられていたわけです。
なぜ、骨だったのか。
骨は硬い。
しかし、石とは違います。
骨には、もともと形があります。
細長い骨なら、その形を利用できる。
平たい部分なら、削って道具にできる。
管状になった部分なら、その形そのものを利用できる。
昔の人は、材料を完全にゼロから作っていたわけではありません。
自然が作った形を見て、その形に合わせて道具を作っていた。
私は、ここがとても面白いと思っています。
現代のものづくりでは、板や棒など、均一な材料を用意してから加工することが多い。
ところが天然の骨は、一つとして同じではありません。
曲がっている。
太さも違う。
形も違う。
だから、
「この骨なら何が作れるだろう」
と考えるところから始まります。
骨は、針になった。
骨の利用で特に興味深いのが、針です。
縄文時代の日本では、動物の骨を加工して作られた骨針が使われていました。
針のように細く加工された骨。
中には、糸を通すための穴が設けられたものもあります。
つまり、動物の身体から得た骨が、衣服を作るための道具になっていた。
これは、鹿革を扱う私にとって、とても興味深いことです。
動物の皮を衣服にする。
その衣服を縫うための道具にも、動物の骨を使う。
素材が、別の素材を生み出している。
そんな循環が、何千年も前には存在していたのかもしれません。
骨は、釣針にもなった。
骨は水辺でも利用されていました。
縄文時代の遺跡からは、骨製の釣針も出土しています。
例えば宮城県の大木囲貝塚からは、縄文時代中期の骨製釣針が確認されています。
また、海外の博物館に収蔵されている縄文時代の骨製釣針には、魚を捕るための実用品として使われていたことが分かる資料があります。
骨は、針だけではありませんでした。
釣針や刺突具、銛など、生活を支える道具にも利用されていました。
ただし、ここで注意したいことがあります。
縄文時代の釣針には、鹿骨ではなく「鹿角」で作られたものもあります。
鹿骨と鹿角は、同じ鹿から得られる素材ですが、別のものです。
この違いを知ることも、鹿の素材を利用する上では大切だと思っています。
骨は、身につけるものにもなった。
骨は実用品だけではありません。
装身具にも利用されています。
縄文時代の遺跡からは、動物の骨や角を加工した、髪に挿す道具や垂飾、腕輪などが見つかっています。
鹿の中手骨や中足骨を材料とした骨製の笄も確認されています。
笄とは、髪に挿すための道具です。
つまり、骨は「道具」であると同時に、「身につけるもの」でもあった。
生活のために使い、身を飾るためにも使う。
動物の身体を、暮らしのさまざまな場所へ取り込んでいたわけです。
骨と角は、同じではない。
ここで大切なのが、
「鹿骨」と「鹿角」は別の素材だということです。
鹿角も古くから道具や装飾品に利用されてきました。
特に縄文時代の釣針には、鹿角製のものが確認されています。
一方で、今回紹介しているのは鹿の身体を支える「骨」です。
素材としての性質も、形も、加工方法も違います。
だから私は、鹿の素材を一括りにするのではなく、
皮は皮。
骨は骨。
角は角。
それぞれの性質を知って、それぞれに合った使い方を探したいと思っています。
鹿骨は、現代でも面白い素材です。
では、今の暮らしで鹿骨を使うなら何ができるでしょう。
例えば、
・ペンダント
・アクセサリー
・ボタン
・キーホルダー
・小さな留め具
・装飾パーツ
・小さな道具
など。
もちろん、骨の種類や大きさ、部位によって向き不向きがあります。
だから私は、先に商品を決めるのではなく、骨を見てから考えることにしています。
この形なら、これができそうだ。
この大きさなら、こう使える。
ここに穴を開けたら面白い。
少しだけ削ったら、もっと素材の形が生きる。
そんなふうに、骨と相談しながら形を決めていきます。
きれいに揃えないという選択。
工業製品なら、「同じ形」「同じ大きさ」「同じ色」が価値になります。
でも、天然素材は違います。
少し曲がっている。
左右が違う。
表面の表情が違う。
その違いこそが、素材の面白さだと思っています。
だから、すべてを均一に削ってしまうのではなく、
その骨だからできる形を残す。
それも一つのものづくりだと思っています。
今回の写真に写っている作品も、その考えから生まれています。
一頭の鹿から、何ができるのか。
鹿を捕獲すると、肉だけではありません。
皮があります。
毛があります。
骨があります。
角があります。
脂があります。
それぞれに違った性質があります。
私は、それぞれを見ながら、「これは何に使えるだろう」と考えます。
もちろん、すべてを無理に商品にする必要はありません。
大切なのは、使えるものを見つけること。
そして、その素材を必要としてくれる人に届けること。
一頭の鹿から生まれたものが、誰かの暮らしの中で長く使われる。
それが私にとっての「命を活かす」ということです。
何千年前の人も、同じことを考えたのかもしれない。
鹿の骨を手に取る。
削る。
磨く。
穴を開ける。
そうしていると、何千年も前の人たちが同じように骨を手にしていたことを思います。
もちろん、当時と現在では道具も技術も違います。
それでも、
「この骨、何かに使えないだろうか」
という発想は、今も昔もそれほど遠くないのかもしれません。
捨てる前に考える。
素材の形を見る。
性質を知る。
そして、もう一度暮らしの中へ戻す。
骨は、捨てるものではなかった。
革になる皮。
作品になる角。
道具になる骨。
一頭の鹿は、山を離れたあとも、さまざまな形で人の暮らしに残っていきます。
今回の写真に写っているのも、その一つです。
白い骨を眺めていると、また考えてしまいます。
「これは何になるだろう。」
もしかすると、何千年前の人も同じように骨を手に取り、同じことを考えていたのかもしれません。
骨は、ただの残り物ではありません。
まだ使い道を待っている素材です。
美杉の山で捕獲された一頭の鹿から、できるだけ多くのものを活かしていく。
その小さな試みを、これからも続けていきたいと思います。
参考資料
文化庁「文化遺産オンライン」
鹿の中足骨を4分割して作られた縄文時代の骨針
骨針(文化遺産オンライン)
鹿の中足骨を半分に割って作られた骨箆
骨箆(文化遺産オンライン)
鹿の中手骨または中足骨を利用した骨製笄
骨製笄(文化遺産オンライン)
鹿角を利用した縄文時代の笄
鹿角製笄(文化遺産オンライン)
鹿角製の縄文時代の釣針
釣針(文化遺産データベース)
The Metropolitan Museum of Art
縄文時代の骨製針
Needle(The Metropolitan Museum of Art)
縄文時代の骨製釣針
Fish hook(The Metropolitan Museum of Art)
骨製の針・釣針・銛など
Needles, hooks, and harpoon(The Metropolitan Museum of Art)
